この世はうらめしい、けどすばらしい」朝ドラ『ばけばけ』の真意【朝ドラ】

2025年度後期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』が、9月29日(月)にいよいよ放送開始を迎えます。ヒロインの松野トキを演じる髙石あかりさん、そして夫となる外国人英語教師ヘブンを演じるトミー・バストウさんの夫婦の物語は、放送前から多くの関心を集めています。

本作のキャッチコピーは、「この世はうらめしい。けど、すばらしい。」。この、一見相反する感情が込められた言葉こそが、『ばけばけ』という物語の核心であり、明治という激動の時代を生きる人々の真実を表しています。

なぜこの物語は「うらめしい」「すばらしいの両方を描くのか。ヒロイン・トキの生き方と、脚本家ふじきみつ彦さんが込めたメッセージから、その真意を読み解きます。

 

「うらめしい」時代:武士の没落と時代の波

 

物語の舞台は、明治維新を経て西洋化が急速に進む日本。ヒロイン・松野トキ(モデル:小泉セツ)は、松江の没落士族の娘として生まれます。彼女の人生は、まさに時代の「うらめしさ」に満ちていました。

維新の混乱により、武士の身分を失った士族は困窮。トキの父親が事業に失敗したことで、一家は極貧生活に陥ります。トキはわずか11歳で学校を辞め、家計を支えるために過酷な労働を強いられます。さらに、一度は結婚するも、夫には出奔されるという苦難を経験します。

この「うらめしさ」は、単にトキ個人の不運ではありません。それは、時代に取り残され、急速な近代化の波についていけずに埋もれていった、当時の多くの名もなき人々の悲哀を象徴しています。古い価値観や習慣、そして貧しさや偏見に縛られ、生きづらさを感じていた人々の心に、この「うらめしい」という言葉は響くのです。

『ばけばけ』は、こうした時代の影の部分から目を逸らさず、むしろその中で苦しみ、もがきながら生きる人々の姿を真正面から描くことに挑んでいます。

 

「すばらしい」の発見:怪談愛と異文化の出会い

 

では、トキはいかにして「うらめしい世界の中に「すばらしいを見出すのでしょうか。その鍵となるのが、彼女の持つ「怪談愛」、そして異国から来た夫ヘブン(モデル:ラフカディオ・ハーン)との出会いです。

トキにとっての怪談は、ただ怖い話ではなく、「心模様の物語」です。彼女は、古い民話や伝説に耳を傾ける中で、時代の変化によって忘れ去られた人々の切ない思いや、土地に根付いた文化の美しさを見出します。

そして、孤独を抱える外国人教師ヘブンとの出会いにより、その「怪談愛」は新たな意味を持ち始めます。言葉も文化も違う二人を結びつけたのは、共通の「怪しい話好き」でした。

  • トキが、故郷の民話や身の回りの人々の物語を「語り」ます。

  • ヘブンが、その言葉に熱心に耳を傾け、自らの言葉で「書き残し」ます。

この共同作業は、文化の壁を超えた「愛の交換」であり、トキにとっては、自分の存在と価値が初めて肯定される体験でした。没落士族の娘として「うらめしい」現実に打ちのめされてきたトキが、夫のまなざしを通して、自分自身と、自分が愛する故郷の文化が「すばらしい」と気づく瞬間こそが、物語の最大の感動ポイントです。

 

脚本家ふじきみつ彦が描く「日常の奇跡」

 

本作の脚本を担当するのは、『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』などで、日常の機微とユーモアを描くことに定評のあるふじきみつ彦さんです。彼が描きたい「すばらしさ」は、大成功や富といった劇的なものではありません。

ふじきさんは、「セツさんは特別なことを成し遂げたりとてつもない夢を叶えたりした人ではありません。少し変わった、しかし何気ない日常を送った、言ってみれば普通の人かもしれません。だけど、だからこそ愛おしいのです」と語っています。

この言葉は、「うらめしい」という苦難の中で、夫婦が共に生き、笑ったり転んだりする「日常」こそが最高の「すばらしさ」であるという、物語の根底にあるメッセージを物語っています。

朝の連続テレビ小説は、視聴者の毎日に寄り添う存在です。人生には理不尽で「うらめしい」こともたくさんあるけれど、その中で愛する人と分かち合う、ささやかな喜びや優しさ、平凡な日常の中にこそ、確かな「すばらしさ」がある。

「この世はうらめしい。けど、すばらしい。」—この言葉は、激動の明治を生き抜いたトキとヘブンの夫婦の真実であり、現代を生きる私たちへの、優しく力強いエールとなるでしょう。

2025年9月29日から始まる、髙石あかりさん主演の『ばけばけ』。その静かなる感動と、心温まる日常愛を、ぜひ毎朝お楽しみください。

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ばけばけ
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