2025年9月29日(月)に放送がスタートするNHK連続テレビ小説『ばけばけ』。ヒロインに髙石あかりさんを迎え、明治の文豪・小泉八雲の妻、小泉セツをモデルとした物語が描かれます。
本作が従来の朝ドラと一線を画す異色の魅力を放つ理由、それは脚本をふじきみつ彦さんが手掛けることにあります。『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』や『デザイナー渋井直人の休日』など、日常の機微とユーモアを描くことに長けたふじきさんが、激動の時代を舞台にした朝ドラで、どのような「異色の日常愛」を紡ぎ出すのか。その注目ポイントを深掘りします。
もくじ
劇的ではないけれど、愛おしい「何も起きない物語」
『ばけばけ』の制作発表時、脚本のふじきみつ彦さんは「何も起きない物語を書いています」とコメントし、多くの視聴者を驚かせました。
朝ドラといえば、ヒロインが困難に立ち向かい、夢や成功を掴むという「立志伝」が主流です。しかし、ふじきさんが目指すのは、光でも影でもない部分、すなわち「何気ない日常の中で埋もれていく人々の心」に光を当てることです。
モデルとなった小泉セツ(ドラマでは松野トキ)も、偉大な功績を残した「成功者」ではありません。没落士族の娘として極貧生活を送り、一度は結婚に失敗し、最終的に異国の文豪の妻となるという、波乱はあっても「普通の人」です。ふじきさんは、だからこそ彼女の人生が愛おしいのだと語ります。
彼の作風は、日常に潜む“生活臭”と“ユーモア”**に満ちています。
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『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』では、派手な事件は起こらないものの、日常のちょっとしたズレや優しさが、視聴者の心を温かく包みました。
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『デザイナー渋井直人の休日』では、中年男性の切ないおかしみや、空回りする日常を淡々と描き、熱狂的な支持を得ました。
『ばけばけ』でも、派手なドラマツルギーではなく、トキとヘブン(小泉八雲)夫婦が、言葉の壁や文化の違いに戸惑い、笑ったり転んだりしながら、互いを理解し合っていくプロセスが丁寧に描かれるでしょう。この「地味だけど味わい深い」日常こそが、ふじき脚本の真骨頂であり、本作最大の魅力となるはずです。
「怪談」というフィルターが映す明治の日常愛
『ばけばけ』の大きなテーマの一つが、トキとヘブンを結びつける共通の趣味「怪しい話好き」、すなわち「怪談」です。
しかし、この「怪談」は単なるホラー要素ではありません。当時の日本では、急速な西洋化により、古い習慣や伝説、そしてそれにまつわる人々の切実な思いが次々と忘れ去られていました。トキが語る怪談や民話は、まさにその時代に取り残された「名もなき人々の心」の断片です。
ふじき脚本は、この「怪談」を、夫婦の**「コミュニケーションツール」**として昇華させます。
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トキ:自分の言葉で、故郷の文化や人々の愛憎を夫に伝えたい。
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ヘブン:妻が語る不思議な話を通して、真の日本人の心、埋もれた感情を知りたい。
怪談を介した二人の対話は、異文化理解の壁を乗り越える「愛の共同作業」です。トキが語り、ヘブンがそれを書き残すことで、二人は時代の波に押し流されそうな人々の「代弁者」となります。この静かで深い結びつきこそが、ふじきさんが描きたい“異色の日常愛”の核心であり、劇的な出来事よりも強く、視聴者の心に訴えかけるでしょう。
ハンバート ハンバートの主題歌「笑ったり転んだり」
ふじきみつ彦さんの脚本世界観を決定づける要素として、主題歌の存在も欠かせません。本作の主題歌は、夫婦デュオハンバート ハンバートの「笑ったり転んだり」に決定しています。
この主題歌の発表は、SNSでも大きな話題となりました。彼らの持つ、素朴でユーモラス、そしてどこか哀愁を帯びた音楽性は、まさにふじき脚本が描く“生活の歌”そのものです。
佐藤良成さんは、曲作りについて「モデルとなった小泉セツさんの『思い出の記』をただただ繰り返し読み、自分がセツになったつもりで一気に作りました」とコメントしています。主題歌が、ドラマのテーマである「何気ない日常の愛しさ」を飾らずに代弁し、毎朝のひとときを優しく包み込んでくれるでしょう。
脚本家と主題歌、二つの才能が共鳴することで、『ばけばけ』は、従来の朝ドラの枠を超えた、**「生活密着型ヒューマンドラマ」として、新たなファン層を開拓する可能性を秘めています。
2025年9月29日、始まるのは「うらめしい。けど、すばらしい。」時代の物語。ふじきみつ彦さんが紡ぎ出す、クスッと笑えて、じわっと心に沁みる、“異色の日常愛”をぜひ堪能してください。
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